执笔者プロフィール

小室 正纪(こむろ まさみち)
その他 : 慶應義塾大学名誉教授
小室 正纪(こむろ まさみち)
その他 : 慶應義塾大学名誉教授
画像:提供:庆应义塾福泽研究センター
庆应义塾に居たからこそ、なんだか福泽諭吉を避けていた。「教祖様」は敬して远ざけていたいという気持ちだったかもしれない。そんな訳で、福泽諭吉の着作を、腰を据えて読み始めたのは、1980年代の末で、40歳近くになってからであった。
そのころ丸山真男さんの『「文明论之概略」を読む』(以下『読む』)が出版され、私の周りでも大変に高く评価されていた。ある时、この书について先辈の坂井达朗さん(后に福泽研究センター所长)が、雑谈の中で、〈あれはいいけども、丸山さんの読みでね、最初にあれを読んじゃうとね〉という感想を话していらっしゃった。
実は、その时はまだ『読む』も『文明论之概略』(以下『概略』)も読んではいなかったが、内心なるほどそういうものかと思い、それからしばらくして旧版の岩波文库で『概略』を読み始めた。
それまで江戸时代の资料を読んでいたので、それに比べれば文章は遥かに分かりやすく、しかも巻头から论旨はクリヤーであり、ズイズイと引き込まれた。そして、第1章の末段近くまで読み进めた时、そこに「试(こころみ)に见よ、古来文明の进歩、其初は皆所谓异端妄説に起らざるものなし」という一文を见て、头がクラクラするような衝撃を受けた。天保生まれの思想家がこんなにラディカルなことを印象深い一文に集约して表现するのかという衝撃であった。
その后も何度となく机会あるごとに『概略』を読み返した。ゼミの学生诸君と夏の合宿で読んだこともあった。しかし、何度読んでも「试に见よ、古来文明の进歩」云々の一文は、『概略』を象徴する一文だという思いに変わりはない。
「异端妄説」が起るには、様々な説が生まれ活発に议论が行われる「多事争论」の社会でなければならない。また、その议论が科学的な知性に里付けられていることも重要だ。『概略』はそのような社会を日本に実现させるための着作なのである。全巻の目指す所は「异端妄説」を生み出すことだと极论してもよい。
この『概略』を福泽の思想遍歴の中にどのように位置付けるか。多くの研究者は、『概略』からいかに福泽の思想が変わって行ったかを分析している。しかし笔者は、福泽の文明観とそのラディカリズムは生涯変わっていないと考えている。
福泽は物事の本质を思索する思想家であると同时に、目の前にある人民の豊かさと自国の独立のために记事を书くジャーナリストでもあった。そのため着作には、その时その时の时事问题に関して现実主义的な道を示すものが多い。しかし、その现実主义に彩られた衣の下には、『概略』以来のラディカリズムという鎧が生涯にわたって垣间见える。
このように考えると「试に见よ、古来文明の进歩」云々は、福泽の生涯の思想を象徴する一文に思える。
2008年の庆应义塾创立150年を记念して、その翌年に福泽諭吉に関する展覧会を开くことになった。その準备を始めるに当たって鷲见洋一さん、前田富士男さんと、展覧会のコンセプトを象徴する言叶を考えることになった。迷わず「试に见よ、古来文明の进歩」云々の一文を话に出した。それは、先に述べたような思いがあったからである。そこからセンスの良いお2人との间で话は展开し、「异端と先导」という简洁な言叶にコンセプトが集约された。また、展覧会図録の冒头では时の安西祐一郎塾长が、「试に见よ、古来文明の进歩」云々をリード文に掲げて巻头言を书かれ、この展覧会のコンセプトを明确に示された。
ところで、『概略』を最初に読んでから间もなくして丸山さんの『読む』も熟読した。福泽が参考としたギゾーやバックルの原书を読まれているのは勿论のこと、洋の东西にわたる丸山さんの凄まじい教养を武器に、福泽の考え方を分析して行く见事さに圧倒された。
それ以来『読む』は爱読书の1つである。ただ、考えてみると、それは丸山思想史への惚れ込みであり、読后に意外と『概略』についての印象は残らない。この点では、やはり无手胜流でも、最初に『概略』そのものを読んだことは幸せであった。そうでなければ、あの一文を最初に目にした时の衝撃は无かったと思う。
その后、いろいろな事情もあり、福泽の着书は勿论のこと、书简や『福泽諭吉全集』に収録されていない『时事新报』の社説なども読むようになった。时に嫌味な所を感じることもあるが、読めば読むほど福泽に强く惹かれてゆく。このままでは「福泽教」の信者になってしまうのではないかと思うことさえある。そんな时、繰り返し「惑溺」を批判している『概略』の主张が思い浮かぶ。どんな惯习や思想や学説であっても、それに无批判に溺れてはいけないということだ。『概略』は私にとって福泽惚れの入り口であったと同时に、「福泽教」に溺れることを押しとどめてくれている一书のような気がしている。
※所属?职名等は本誌発刊当时のものです。