执笔者プロフィール

松冈 享子(まつおか きょうこ)
その他 : 公益財団法人東京子ども図書館名誉理事長塾员

松冈 享子(まつおか きょうこ)
その他 : 公益財団法人東京子ども図書館名誉理事長塾员
塾の図书馆学科を卒业したのは、1960年。もう60年も前のことになった。あの右手に邮便局のある坂をのぼって、幻の门をはいって左、外国语学校の校舎であった木造の古い建物(五号馆)の奥、図书馆学科の事务室にいきなり飞び込んで、「ここでは児童文学を学べるのでしょうか?」と寻ねた日のことを思い出す。どちらかというと优柔不断だった20代前半のわたしが、「学生募集」の小さな新闻记事だけを頼りに、こんな行动に出たのは、今から考えるとふしぎだ。だが、そこからすべてがはじまったといえる。
図书馆というものを知らずに子ども时代を过ごしたわたしが、公共図书馆の存在を知らされ、大好きな本と子どもに関わる児童図书馆员という职业があることを教えられたのが、図书馆学科での2年间だった。これこそわたしがしたかったこと、と胸跃らせたときから今日まで、公立図书馆にはじまって、我が家での家庭文库、そして、法人组织の私立図书馆と、活动の场を移しながらも、子どもと本のたのしみを分かち合う仕事から离れずにいられたことは、なんという幸せであろうか。
残念なのは、私立図书馆などという无谋な冒険をはじめたために、直接子どもと接する机会が、年々减ってしまったことである。代わって増えてきたのが、大人に向かって、子どもの読书の大切さを诉える仕事である。学校のPTAで、保育园の保护者会で、子ども文库の関係者や図书馆员の集まりで、頼まれては出かけて行ってお话をすることを、ここ何年もつづけてきた。
テレビのリモコンの操作や、スマホをいじることは教えなくてもおぼえてしまう子どもだが、本のたのしみは、だれかそばにいる大人が仲立ちをしてやらないと子どものものにならない。だから、家庭では幼い子に絵本を読んでやってください、字をおぼえた子にも本は読んでやってくださいと、どこへ行ってもお愿いをしてきた。それが、子どもにとってたのしいことだし、読书へのいちばん确かな道だからだ、と。
だが、大人を相手にすると、とくに教育関係者を前にすると、それだけではすまなくて、子どもが本を読むことにどんな効用があるかを説かなければならなくなる。いわく想像力をはぐくむ。ことばの力がつく。知识を増やし、视野を広げる。人间と社会への理解を深める。表面的な情报に流されず、深く考える态度を养う。本のなかに理解者を见つけることで心の安定が得られる。読书习惯が身につけば生涯学びつづけられる手段を手に入れることになる。本のなかに时空を超えた友、また师を见つけることができる。手軽で安上がりで、しかも豊かな人生に欠かせないたのしみだ、等々。
これらはみなほんとうのことで、それを証しする例はいくらでも引いてくることができる。身のまわりから、はたまた本のなかから、いくつもの例を引きながら、热心に説得をつづけてきたのだが、心の底では、いつも「これこれのいいことがあるから」という言い方にはいささかひっかかるものがあった。では、いいことがなければ本は読まなくていいのか、おまえはいいことがあるから本を読んできたのか、と问われると、それは违うと思うからである。
ながいこと子どもに本を勧める仕事をしてきて今思うのは、わたしの场合、本を勧めるときのいちばんの动机は、いい効果があるからではなくて、自分が味わったたのしさをできれば相手にも味わってほしい、という単纯で自然な気持ちだということである。
幼い日、本に没入してこの世ならぬ世界を旅して歩いたときに感じたあのふしぎな空気、わが身には起こるはずのない冒険に手に汗した紧张感、心のもやもやがことばで晴れていく快さ、よくはわからないが何か美しく尊いものに出会えたという感动……ひとことでくくれば?たのしさ?というしかないあの数々の体験が、わたしが本を読むほんとうの理由だし、それが结局はわたしの仕事を前へ进めるエネルギーを生んできたのだ。
今日、子どもの生活は以前に比べて惊くほど忙しくなっており、そのわずかの余暇を本と争って夺おうとする竞争相手がたくさんある。子どもの育ちをやさしく见守るゆとりがない亲も増えている。そんななかで子どもに読书のたのしみを知ってもらうのは容易ではない。
児童図书馆员としては、大いに顽张らなくてはならないのだが、年を取ったからだろうか、今は読书の効用をしゃかりきになって诉える気にはならない。縁あって自分のまわりにきた子どもたちに、ひとりでもいい、「わたしは(?)本を読んでたのしかったよ」と、そっと、でもしっかりと伝えておきたいと愿うだけだ──その子が同じたのしみを见出してくれることを祈りながら。
数は少なくても、本を読む人を何パーセントか内に抱えていないと、社会は健全なバランスを保てないという信念は今も変わらないが。
※所属?职名等は本誌発刊当时のものです。